素材のこと

先だって,GORE-TEXの云々を記事にさせていただきました。
もっと基本的なことになりますが,アウトドアギヤ・ウエアで多用される素材について「よもやま話」をしたいと思います。

さて,以下は米国の通販サイトからコピペしたテントの素材表記です。
判っているようで,実は判っていなかったりしませんか?(^^)

* Canopy: 40D 210T nylon ripstop
* Fly: 40D 238T siliconized nylon with 1500 mm PU coating
* Floor: 70D 210T nylon taffeta with 5000 mm PU coating

* Tent Floor: 70D Nylon Taffeta 3000mm PU
* Fly Fabric: 40D Nylon Ripstop 1500mm PU
* Canopy Fabric: 20D Nylon Knit Mesh
* Canopy Fabric: 68D Polyester Ripstop DWR

今回も,またまた長文です。
お暇な方のみドーゾ




ではひとつずつ

ナイロン(nylon)
ナイロンは,1935年アメリカのデュポン社の研究員により開発され,1938年に同社で商品化されました。
化学合成繊維としては最も早く,当時は「石炭と空気と水」から作られたってことで「蜘蛛の糸より細く,絹よりも美しく,鋼鉄より強い」なんていわれ,大戦後の化学合成繊維時代が幕開けとなりました。 日本では,デュポン社からの技術導入により東洋レーヨン(現在の東レ)が1941年にナイロンの紡糸に成功したのを始め,1951年に工業生産されました。

現在,ナイロンは石炭ではなく石油から作られています。
実はこのナイロンという呼び方,最初に商品化したデュポン社の商標に由来するもので,例の“宅急便”とか“クリネックス”“ウォークマン”と,業界初の登録商標が広く一般に呼ばれる式と同じ。 化学的には,ポリアミド(polyamide)が正しく,一般に脂肪族骨格を含むポリアミドをナイロンと総称してます。

また,芳香族骨格のみで構成されるポリアミドはアラミドと総称され,パラ系アラミドの代表として,ケブラー(Kevlar®はデュポン社の商標)鋼鉄の5倍の引っ張り強度や耐熱・耐摩擦性が高く,切創や衝撃にも強い。
メタ系アラミド繊維の代表は,ノーメックス(Nomex®)もデュポン社の商標)耐熱性繊維としてデュポン社が開発し,消防服や宇宙服等にも応用されました。

ナイロンを初めとしたこれら化学合成繊維は,軍事目的で開発されたもので,男子なら一度は袖を通したことがあると思われる“MA-1フライトジャケット”あれなんかは,もともと革や綿の天然素材で作っていたものが需要に間に合わないため,大量生産できて強い新素材ナイロンになったもの。 その後,MA-1ジャケットは戦闘機内での火災に弱いということで,ベトナム戦争の頃には耐火性の高いノーメックスに取って代わりましたし,ケブラーなんかは防弾チョッキと,戦争という時代の要求は皮肉なことに新繊維の発明を後押ししたということになりますか・・・日本でも「戦後強くなったもの」として,女性とストッキング・・なんて言われますね(^^)


ナイロン繊維の特徴
強度・磨耗に非常に強く,他の繊維に少し混紡することで,その繊維強度を格段に向上させることが出来ます。 汚れが落ちやすく,速乾性があり繊維自体の抵抗力が強い。 油類,カビ,虫,細菌などに影響されず,酸に対しては綿の100倍,特にアルカリに強い。 融点はナイロン66が約265℃,ナイロン6は約215℃。 耐熱性に弱く熱を加えると変形してしまう。 耐熱性の弱さを利用して熱セットすることで伸び縮みや型崩れ,ゆがみなどを避けることが出来る。 ハリ,コシがないナイロン単体で使用すると,ハリとコシがないため型崩れを起こす。 他の繊維と混紡又は撚り合せによって使用することで,ハリとコシを補う必要がある。

樹脂とのコーティング(塗布)やラミネート(貼り合せ)に向いた素材でスポーツ用途に多く使われています。
またポリエステルより粘性が強く 引き裂きに強いので,パラグライダーやパラシュート エアーバックなどの安全性が要求される用途に使われる事もあります。

ポリエステル(Polyester)
ポリエステルの原料は,ナイロンと同じく石油です。 ポリエステルは,エステル結合をもつ高分子の総称ですが,繊維では主としてテレフタル酸又はテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールの縮合反応によって得られるポリエチレンテレフタレート(PET)を示し,水のように単純な分子を分離しながら結合を繰り返して高分子になる重縮合反応により高分子を合成します。 ポリエステルは融点が260~265℃で,分解点が300℃以上なので溶融紡糸法により繊維状にします。 ガラス転移点が69~80℃とナイロンより高いので80~100℃で3~5倍に熱延伸して,配向させ強度を増します。 産業資材用の高強力糸を得るためには,固相重合で重合度を高め,更に多段階延伸法で延伸倍率を高めます。

途中で出てきましたが,ポリ・エチレン・テレフタレートの頭文字略称,PET。 どこかで聞いたこと無いですか? はい,ペットボトルのPETデス(^^) なので,あれはナイロンより耐熱性のあるポリエステルです。 安心してホット緑茶が飲めますね。

ポリエステル繊維の特徴
強度・磨耗に非常に強い他ナイロンに次ぐ強度の強さがあります。 弾性力があり,ハリ,コシがある衣類などの製品で着心地がよい。 シワの回復力が良い。 比熱,熱伝導率が小さい羊毛などと高混紡しても風合い,機能性を損ねることがない。 繊維自体の抵抗力が強い油類,カビ,虫,細菌などに影響されず,耐薬品性がよい。 ナイロンと比べると耐熱性が高い。 240℃前後で軟化するため,これを利用して熱セットすることで伸び縮みや型崩れ,ゆがみなどを避けることが出来る。 吸湿性が低いので濡れても乾きやすい。 静電気を帯びやすい毛玉ができやすい。 繊維の強度が高く又繊維長が長いため,毛玉になりやすく取れずらい。 染めにくい。

その他,ナイロンとポリエステルを比較するときに”リサイクル性”を語らずにはおけません。
ポリエステルはリサイクル性がナイロンに比べて高く,最近の作業服なんかは「PETボトルリサイクル」が殆どですかね~ Patagoniaがハードシェル・ソフトシェルともにポリエステルを多く採用しているのは,リサイクル可能な素材であるからデス。 ここでお気づきの方もいらっしゃるかと思いますけど,素材そのものの強度としては,ポリエステルよりナイロンのほうが強い。 でも,40Dのポリと,20Dのナイロンのどっちが強いと言われると,多分40Dのポリエステルが強いと思います。 最近,Fast & Light傾向の強いアウトドアギアが,同じ厚みならポリエステルより強いナイロンを多用するのはそのせいかと・・・

結論的にはどちらの素材も長所・短所がありますので,使用目的や素材加工でユーザーが判断しなきゃならないというか,カタログ表記などから読み解いていかなきゃならいということでしょうか。


次に,デニール(denier)は,英語で生糸や化学合成繊維の太さを測るのに用いる単位です。
女性用ストッキングやタイツの厚さについて,「60デニール」「80デニール」などと用いられます。 1デニールは,9,000㍍当りの㌘数。 "D”であらわします。 例えば"20D”の糸は9,000㍍当り20㌘ある糸と言う意味です。

まぁ,9,000㍍ってもイメージが湧かないので,繊維業界では450㍍の糸が,0.05㌘の時の太さが1デニールと言ったりしてます。 長さ450㍍の糸が,0.05㌘の時の太さが1Dであり,長さが同じで重さが2倍,3倍ならば2D,3Dとなります。 D数が増えるほど,繊維は太くなります。 D表記の数字は大きいほど「太い糸=強い素材」とお考え下さい。 デニールは,国際単位系のISOに準拠しないため,最近ではこの呼び方を止めてデシテックスと言う言い方に変わろうとしていますが,アウトドア・ギヤやウエアの素材表記はいまだにデニールを優先し,国際単位系のテックスと併記されてますね。

テックスは国際単位系であるISOに準拠した化合繊の糸の太さの単位で,10,000㍍当りの㌘数。"T"であらわします。 本来”テックス”は10,000㍍当りの㌘数なのですが,10分の1の意味の”デシ”をつけて,8.4テックス(Tex)=84デシテックス(dtex)と表記します。 EO的には,Tをなぜデシテックスと呼ぶのか意味不明であるものの,例えば”210T”の糸は10,000㍍当り21㌘ある糸と言う意味らしいです。
ややこしいっすね!

恐らく繊維業界か単位業界の利権絡みと思われ,ワタシも聞き慣れたデニールで“感覚的”に理解をしています。 バックパックの底が,210DリップストップナイロンPU なら「丈夫そうやん!」て感じで。 因みに,デキるビジネスマン御用達の"TUMIジェネレーション4.4”なんかのFXTは,1,000D以上のバリスティックナイロンのダブル織り。そら強いわ(笑) やっぱりそのぶん重いけど。


その他,加工技術の用語など


リップストップ(ripstop)
リップストップとは,裂け止めの意味でコットンやナイロン素材の服に碁盤の目状にナイロンの繊維を縫い込み,万が一生地が裂けてもそれ以上の進行を防ぐことをいう。 ちなみに,ripは裂けるという意味。 ダウンジャケットやバックパックで「碁盤の目」状の模様があれば,それはリップストップ。 大雨でテント渋滞なんかしてると,幕体のリップストップの本数を数えたりして暇つぶしが出来ます(^^ゞ


タフタ(taffeta)
ポリエステルやナイロンや生糸など長繊維の糸で織られた“平織りの密な織物”の総称。 ナイロンタフタ・・ なんて小難しそうに表記してても、只の平織りです。

シリコンコーティッド・ナイロン(siliconized nylon)
ナイロン原糸にあらかじめシリコンを塗布(コーティング)したもので織ったナイロン繊維です。 シルナイロンと略。 最近リリースされているシルナイロンを使用したテントについては,シームテープを貼るために裏地にポリウレタンでコーティング(PU)をかけています。 これは普通のナイロンリップのテントフライと同じでありまして,純粋なシルナイロンだと生地の滑りが良すぎるためです。 純粋なシルナイロンは,前述の通りシームテープが貼れないので専用の液体コーティング材で縫い目の目止め(シーリング)を行う必要があります。 ま,ひと手間は軽さの引き替えと言うことで・・・



「耐水圧」について
耐水圧とは一般的に防水性と呼ばれており,mmで表記されています。
生地にしみこもうとする雨水の力を抑える性能数値をいい,JIS規格に基づく「耐水度試験」によって算出されます。 数値は1,000mm以下のモノから,60,000mm以上のモノまであり数値が高ければ高いほど優れ,高価な素材となります。 目安として,1,500mm(強い雨に耐えられる),1,000mm(並の雨に耐えられる),500mm(小雨に耐えられる) テントのフライなんかだと,1,000mmあれば問題ないと考えられていますが,厳しい環境下で使用したい場合は1,500mm以上の表記のものを選ぶといいでしょう。 しかし,耐水性能と重量,耐水圧と通気性は一般に反比例しますので,ここでも能力と重量,使用用途のバランスを見極める眼力が必要となりますか・・・

上の例題で見るとフロア(床)の素材が 3,000mmPU とか 5,000mmPU とテント素材に対し高いのは,大雨の時に下から浸水しないようより強い防水素材(加工)がなされているということでして,外気との温度差が大きいテント内で,バスタブフロア(船底形の床)が大いに結露するのは,耐水性と引き替えに通気性が失われているため。

デリュージ(DWR)
DWR=(Durable Water Repellentの頭略) 耐久性撥水加工のこと。 メーカーや製品によりまちまちですが,あくまで永久ではないとお考え下さい。 **回洗点なんて表記でこの撥水加工がどのくらいの洗濯回数に耐えられるか・・を数値表記したものもありますが,これも使う条件によって変わってくると思っているのでワタシは参考程度に見てます。


はい,こんなところで。 あっちこっちのネット情報からつまんできたもので,貴様にネットリテラシーは無いのかと言われそう。 ワタシ自身の備忘録としてご容赦いただければ幸いです。

次回は,「透湿」なるものに取り組んでみたいと思います。
ふふふ。
by eohiuchinada | 2009-06-09 13:02 | テクニカル