おひとりさま

環境応援団いっぽ代表のNaoさんが,出張先で「ひとり焼肉」にチャレンジしたとか・・・
記事コメントを付けたけど,伝えきれない想いもあり(笑) 尽きかけのブログネタとしてパクらせていただくとした。
本当にありがたいネタ振りだ(^^)

ひと頃,「お一人様」なんてのが喧伝されていたようだが一過性のものだったか,近頃はとんと聞かない。
独身女性の消費行動を表したものであるが,男子の場合,様々な事情によっていとも簡単に,この状況に遭遇する・・・

祖父の代まで瀬戸内の漁師だった我が親父は,無類のサカナ好きで,「地モノ(近海で獲れた魚)かどうかは舌で判る」と豪語する男でした。 ワタシがまだ幼少の頃,親父に連れて行ってもらっていた「すし屋」は,カウンターのみでオヤジと息子の二人で切り盛りする頑固な鮨屋だった。 今にして思えば,この鮨屋,いわゆる”メニュー”が無く,杉板に書かれたネタの下には「時価」と墨痕アザヤカに掲げられた店で,親父も店に入ってビールをオーダーする以外は,勝手に料理が出てくる”おまかせシステム”だった。
恐ろしく短気で気にくわないことがあれば,理屈よりも鉄拳制裁だった昭和の男が全面的に文句なく店側に食べるものを任せきるというこのスタイルは,家で出されたモノは残さず食べる正しい夫と同意であり,カッコイイ以外に見当たる言葉が無いんである。




出張先,とりわけ初見の地で,一人フラリと外食する際,焼肉・鮨・居酒屋は特にその店のチョイスに並々ならない集中力と緊張感でもって臨まなければならない。
全国展開している外食フランチャイズ店は言うに及ばず,もはや国民食とも言える,ラーメンやカレー,焼き鳥といった「男が一人でメシを食う」に似つかわしい店は,仮にマズイそれらの料理を出されても,「ああ,失敗・失敗」と笑って済ませることが出来るが,焼肉と鮨,居酒屋の場合は,笑って済ませられないフトコロ事情&選店眼事情が複雑に絡み合い,「食い物の恨みはオソロシイ」と言われるように,場合によってはその土地の好き嫌い,ひいては県民紛争にまで発展しかねない危険を内包している(笑)

まぁちょっと大げさではあるが,ワタシが”おまかせデビュー”したのは忘れもしない青森県の八戸だった。
8-Door's は,イカの水揚げで全国有数の港町で,フラリと入った「松屋(たしかこんな名前)」という鮨屋。
そこはカウンターの鮨が回ったりしない,清く正しい鮨屋さんで,暖簾をくぐって店内に入ると「らっしゃい」っていう背筋のピキンと伸びた発声で,細面角刈り豆絞りのねじり鉢巻き職人一筋ってなオヤジさんが表に独り居るのみ。
時間も早く,先客は居なかった。
ネタケースには,整然と魚介類が今や遅しと鎮座ましまし,ケースの前は手入れの行き届いたカウンターで,8人も入れば,十分目一杯という広さの店でした。
素早く差し出された熱々のオシボリを受取りながら店内をぐるりと見回すが,例の杉板(ネタのみ表記)が掛かっているだけで,「晩酌セット」も「松竹梅各種コース」類の表示も「お品書き」も置いていない。 アサヒビール生と印刷されたポスターのビキニギャル(死語)がジョッキを片手にニッコリと微笑むのみだ。

ムムムッと唸りつつ,「先ずは生ビールと,イカの刺身をください」とオーダー。 財布の中身を頭で思い出しつつ覚悟を決めましたね。 昔,親父が連れて行ってくれた鮨屋を思い出せ!って。 幸いなことに,先付けの昆布〆もイカの刺身も驚くほど上品な味で美味しい。 あとは”おまかせ”で,おなかがくちくなるまで鮨・肴を堪能~ 「大将,これくらいで」と打ち止めするまでの間,仕事で八戸に来たこと,やっかいになっているホテル,町の感想などとりとめもない会話の中に,絶妙のタイミングで繰り出される鮨やつまみの旨いのなんの。 結局,地酒なんかをおかわりしつつ勘定は6・7千円だったかな。
男一匹おひとりさまデビュー戦がこんなビギナーズ・ラックだったんで,味をしめてその後も「出たとこ一本勝負」を続けているが,イチローほどの打率が出ているかどうか(^^ゞ

吉野屋なら10数回分の食事代になりますが,ワタシの経験上,おまかせの店って意外と高くない。 てか,これも男の修行と思ってグルメ情報サイトに頼らないをルールに,緊張感を楽しんでます。 好きな小説家である司馬遼太郎先生も,これまた作品の中で1・2を争う好きな小説「峠」の中で,「若いうちは食い気が勝っているから何を食べても美味しいという記憶しか残らない。 食が細り,舌で微妙な味がわかるようになったときに男の値打ちがわかる・・・ とかくこの世は,食い気だけの若い者と味のわかる大人の闘いだ」みたいなことを書かれている。 池波正太郎先生も鬼平犯科帳ほかで「一度食ってみたい」と思わせるレシピを作品中に登場させている。
男の独りメシは深いんである。

フレンチだイタリアンだと,”シェフのお任せ”とか,”同,気まぐれ”だとかに身を委ねるつもりはこれっぱかしもないが,「価格表示」があると,探検ゴコロが萎えるし,どうしても先に構えてしまう。
しかし,黙って座れば旬のネタが繰り出される「おまかせシステム」は,是非一度経験することをお勧めする。
一年前に逝った親父の想いを継ぎ,飲酒解禁年齢となった我が家の長男君に,近く伝承しなければなるまい。
by eohiuchinada | 2009-05-14 17:06 | 食事