レイヤリングの話

タオル地,ガーゼ,リネン・・うっとうしい季節を爽やかに過ごす生地・素材の代表選手。
重ね着の少なくなる夏のオシャレでは,通気とか吸湿性のいい服がヘビーローテーションになりますね。
夏に着る服素材は,汗を吸う・通気が良くてすぐ乾く素材がベスト!
夏にウールなんてとんでもない・・といったところが一般概念になっていると思います。
しか~し。 サラリーマン諸君! スーツの素材は何で出来ていますかね?

ワタシが高校生登山部現役の頃,オフィシャルな山行では真夏も上はウールのボタンシャツ,下はウールのニッカーにウールの靴下でした。
標高2千㍍に届かない四国の夏山で,かんかん照りの純毛セットは当然のことながら汗のかき放題のお祭り状態でして,よくまぁ脱水症とか熱中症にならなかったものです。
なぜこんなばかばかしい格好をさせるのか,当時はよく理解しないままでした。

しかし,標高3千㍍級の日本アルプスなんかの山岳地帯では,今も昔も季節を問わず「身体を濡らせてしまう」ということは,直接的に生命の危険に係わるわけで・・
以下,出戻りハイカーのレイヤリング(重ね着)について自分なりの理解と経験をもとに備忘として記します。




全く無計画に手を出してしまった一連の記事がただいまのところ拡散した状態でありまして,このままでは纏めに辿り着かず,論理が発散したまま終わるのではないかと内心ヒヤヒヤです。
案外,ハゲの原因はブログのせいかも知れません(笑)

さて,ウールの話。
山で汗びっしょりになったウエアのままでいると,ゾクゾクとした寒気を催すことを経験されることがあると思います。
これを「汗冷え」といいます。

ウール繊維の表面を顕微鏡レベルで見ると,人間の頭髪と同じくウロコ状になっています。
汗をかいて湿度が高くなるとウロコの先端が開き,そのすき間から汗が繊維内部に吸収されます。
ウールは自重の40%までの水分を吸収しても表面は乾いた感じを保つのは,ウール表面の撥水性で繊維表面に汗は付着せず,繊維間のすき間が汗でふさがれることがないので通気性が保たれ快適なわけです。

空気を1として水の熱伝導率は24~26倍もあります。
濡れたウエアを着たままでいますと,汗が蒸発するときの気化熱が体温を奪います。
夏はこれを利用すれば涼しく感じるわけなんだけと,山岳の場合,標高が100㍍上昇する毎に気温は0.65℃下がる(常識的な湿度のとき。乾燥した空気だと,100㍍上昇する毎1℃下がる)といわれております。
更に,風速冷却効果なんてものがありまして,風速が強くなるほど体感温度が下がります。
風呂上がりに濡れっぱなしで扇風機を回すと冷たく気持ちいいのは上記の理由によるもの。
北アルプス稜線で風が吹けば,夏でもガタガタ震えるのも平地より低い気温と風速による体感温度低下のせいです。

繊維は,湿気を吸着すると「吸着熱」と呼ばれる熱を発生します。
その発熱量は繊維によってさまざまですが,ウールは他の繊維に比べると抜群の吸着熱を生みだしてくれる繊維。
ミズノ社のブレスサーモはこのウール特性を更に高める加工をして「自己発熱」を売りにしています。
冬でも足の発汗量が多いワタシなんかですと,同社の靴下はとても相性がいい感じです。
冬山で遭難したときは「肌着にウールを着用しているかどうかで生死がわかれる」といわれるほど。
ウールの肌着を着ていると,汗をかいたとき吸収してくれるだけでなく熱を発生して汗冷えしません。

このような理由から山で着るウエア・ウエアリングの鉄則は,第一に,とにかく濡らさないこと。
第二には,服が濡れても身体が冷えないことが肝要といえます。


次に化繊の話。
綿,羊毛,レーヨンなどは本来の性質として吸湿・吸水性に優れますが,ポリエステルやナイロンなど合成繊維は吸湿・吸水性が劣ります。 吸湿素材とは,気体の汗(水蒸気)などをよく吸収する素材をいいます。
一方,吸水・吸汗素材とは水や汗などをよく吸収する素材をいい,吸水性能には毛細管現象が大きく影響します。
合成繊維も表面加工の技術によってこの吸湿・吸水性を高めた素材が開発されています。
単位容積当たりの繊維表面積を増やすことにより,繊維表面と水との接触面積が増え表面張力が大きくなり吸水性が向上します。
なおこれらの加工でも繊維自身の化学的性質は変化しないため,合成繊維の乾きが早い性質(速乾性)は残ります。
最新の化繊素材は,親水性加工の技術を駆使して毎年のように新しい快適素材を市場に送り出していて,とにかくモノ選びに迷ってしまいますね。

なかでも,レイヤリングなるものを最初に提唱したPatagonia社は,自社製品のアクティビティ別の選択・組み合わせの考え方が非常に明確で,WEBカタログを見ても購買者に対する訴求力が高いと思います。
Ark’teryx社はコダワリの自社開発素材でもって新機軸を提供し続けてくれるヤバリキメーカー。
以前紹介した国産ファイントラック社のフラッシュドスキンなんかは,肌に直接着るベースレイヤーなんだけど,汗抜け(通過)させて外からの水は強力撥水するという親水性の対極ともいえるコペルニクス的転回の製品。
実際,夏でも冬でも使えるグッジョブ太郎なんですよ~
天然素材の優等生ウールも,超極細メリノウール製品が各社から発売され,夏でもウールは常識化しつつあります。
特に名指しはしませんケド単なるファッションブランド化したメーカーもありいので,ますますアウトドア・ウエアのカオスから目が離せません。


なんだか纏めになったのかどうか,これから山道具屋さんへ通う機会が増えると思う級友への申し送りとして・・・
ベースレイヤー(肌着)は,汗を吸い上げセカンドレイヤー以降へ移動させること。
ミッドレイヤー(中間着)は,吸湿・吸水した水分を素早く拡散・蒸発させること。
トップレイヤー(上着)=シェルジャケットは,雨や風をシャットアウトしつつミッドレイヤーに溜めた水分を水蒸気に変えて外へ逃がすこと。

夏であればベースレイヤー単独,あるいはベースレイヤーとミッドレイヤーの組み合わせで汗が蒸発するときの気化熱を利用しましょう。 冬であればミッドレイヤーにウールや羽毛,化繊保温材といったインサレーション(保温剤)を加え,体温による自己発熱を最大限に利用しましょう。 雨や雪の時には防水透湿素材のシェルジャケットが必要になりますが,風だけであれば薄いナイロン素材のウィンドジャケット一枚羽織るだけで暖かさは全然違ってきます。
あとは好きなメーカーロゴで揃えるも良し,自分のテーマカラーで揃えるも良し,お好きにドーゾ。

色といえば余談になりますが,夏に向けての小ネタをひとつ。
白い色は光を反射するといわれてマス・・・光を反射するので紫外線対策にも一見効果的なようですが,白色が反射するのは熱だけであり,紫外線は通してしまうという特性があります。
一方,黒色は熱を吸収しますが紫外線は通しません。
ウチの奥さんが日傘を買うといったら,ワタシは迷わず「黒」を推奨しますね~
by eohiuchinada | 2009-06-12 13:00 | テクニカル